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取り組み事例(スポーツ団体)

スポーツ界の気候変動に対する取り組み

この記事のPOINT!

  • 世界各地のスポーツイベントでプラごみ削減への取り組みが実施されている
  • 持続可能な環境への取り組みによって、潤ったチームもある
  • 日本でもプラごみ削減への取り組みが徐々に活性化

スポーツイベントが生み出す環境負荷

世界各国で毎日のように開催されているスポーツイベント。JリーグやBリーグ、プロ野球といったリーグ戦から、オリンピックやワールドカップのような国際大会、甲子園や箱根駅伝など学生の大会や、東京マラソンのようにアマチュアが多く出場する大会もあり、その規模や種類は無数にあります。これらのスポーツイベントは莫大な動員数を誇りますが、動員数が多ければ多いほど、環境への負荷も大きくなってしまいます。

例えば、近年のオリンピックでは、新型コロナウイルス感染症の流行により無観客で開催された東京2020大会を除き、平均360万トンもの炭素を排出していました。2024年に開催されたパリ2024大会では、炭素排出量を150万トンに半分以上削減するという目標を設定しましたが、それでも莫大な排出量であり、気候変動の一因である温室効果ガスの増加に大きな影響を与えます。

Can Paris 2024 cut the Olympic carbon footprint by half? | SWEEP(外部リンク)

 

スポーツ界ではじまった、環境負荷低減への取り組み

近年では気候変動の深刻化に対処するため、使い捨てプラごみ削減をはじめ、環境になるべく負担のかからない取り組みをはじめるスポーツイベント・スポーツチームが増えてきています。2024年開催のパリオリンピック・パラリンピックにおいては、開催前からフランス・パリのイダルゴ市長が史上初の使い捨てプラスチックのない大会にすることを公言しています。またイングランドのプロサッカーリーグであるプレミアリーグでは、リーグ全体でプラスチックごみを減らす取り組みを推進。2023/24シーズンにおいて全20クラブで、使い捨てプラ削減の 実行率100%、肉食に比べ環境負荷の少ないヴィーガンフード提供の施策実行率100%、再生可能エネルギーを使用するクラブの割合65%、ホームページに持続可能性に関するページを設けているクラブの割合80%など、リーグ全体や各クラブで環境保護や持続可能な活動に取り組んでいます。
こうした動きは世界中に広がっており、もはや環境への配慮はスポーツイベント運営と切っても切り離せないと言っても過言ではない状況です。ここからは海外や日本のスポーツイベント・スポーツチームにおける使い捨てプラごみ削減のための取り組みをご紹介いたします。

Paris to ban single-use plastic from the 2024 Olympic Games | REUTERS(外部リンク)About: Campaigns | Premier League Football News, Fixtures, Scores & Results(外部リンク)Premier League Clubs Environmental Sustainability Report| Sport Positive Leagues(外部リンク)Pass On Plastic | プレミアリーグ公式サイト(外部リンク)

 

史上初!ペットボトル持ち込み禁止を施行「2024年 パリオリンピック」

2024年7月26日から8月11日まで2週間以上にわたって開催されたパリオリンピック。「オリンピック史上最も環境に配慮した大会」を目指したパリオリンピックでは、環境保護の取り組みの一環として、ペットボトルの持ち込み禁止をはじめ、各種使い捨てプラスチック製品の使用が禁止されました。パリオリンピックのスポンサーであるコカ・コーラも使い捨てプラスチックボトルではなく、再利用可能なガラスボトルや200以上のソーダファウンテン(ユーザーが自分で容器に飲み物を注げる機械)を導入し、使い捨てプラスチックを100トン以上節約する計画を立てました。また、パリオリンピックの一環として一般市民向けに開催されるマラソンイベント「Marathon pour tous」においてもプラスチックを一切使わないレースを実施。ランナーは再利用可能なカップで飲むことができるため、約40万本のペットボトルの削減につながります。

※記事執筆時はパラリンピック開催前のため、オリンピックについてのみ記載しています。

Paris aims to host the most sustainable Olympics ever – here’s how the city is preparing | World Economic Forum(外部リンク)Paris to ban single-use plastic at 2024 Games | Reuters(外部リンク)Paris 2024: More sustainable Games | Olympics.com(外部リンク)Green Games: single use plastics banned for Olympics and Paralympics| PARIS(外部リンク)

 

新給水ボトルで20万本のペットボトルを削減「2019年~ロンドンマラソン」

1981年3月29日に第1回大会が開催され、今や世界で最も人気の高いマラソン大会の1つとなっている「ロンドンマラソン」。同大会はこれまで、マラソンの終了後に約4万人のランナーが投げ捨てたペットボトルの処理に苦戦していました。この問題への対策が大きく前進したのが2019年4月28日に行われた第39回大会。ロンドンに本拠地を置くスタートアップ企業の「Skipping Rocks Lab(現在はNotpla)」が開発した海藻パウチ「Ooho」がペットボトルに変わる給水ボトルとして導入されたのです。前年の第38回大会では91万9000本以上のペットボトルが使用されていましたが、2019年の第39回大会ではペットボトル約70万本と「Ooho」20万個を導入し、約20万本のペットボトル削減に貢献しました。「Ooho」はワカメを原料とした歯で袋を噛み切って液体を飲めるプロダクト。袋はそのまま食べることも可能ですが、自然の中に放置しても4〜6週間で分解されます。日本人には馴染み深いワカメですが、イギリスでは外来種として繁殖し、問題視されていました。

「Ooho」は同大会で注目を集めたことをきっかけに、イギリスの「Chippenham Half Marathon」「Harrow Half Marathon」やスウェーデンの「ヨーテボリハーフマラソン」オランダのランニングイベント「ゼーヴェンホイフェレンループ」をはじめ、世界中のマラソンイベントで導入されています。 

History of the London Marathon | ロンドンマラソン公式サイト(外部リンク)London Marathon Events aims to become world leader | ロンドンマラソン公式サイト(外部リンク)環境破壊をゼロにする「食べられるボトル」を作った英国企業 | Forbes JAPAN(外部リンク)Japanese kelp Undaria pinnatifida | NNSS(外部リンク)Ooho Run Information Pack| Chippenham Half Marathon(外部リンク)HU.K. Half Marathon Ditches Disposable Water Bottles and Single-Use Cups | Runner’s World(外部リンク)Ooho | Notpla Official Website(外部リンク)

 

世界で最もサステナブルなサッカークラブ「フォレスト・グリーン・ローバーズ・サッカークラブ(FGR FC)」

「世界で最もサステナブルなサッカークラブ」と称され、世界中から注目を集めるのがイギリスのプロサッカークラブ「フォレスト・グリーン・ローバーズ・サッカークラブ(FGR FC)」です。所属するのはプレミアリーグの下に位置するEnglish Football Leagueリーグ2(4部相当)。「ピッチ上には特筆するべき実績はない」と厳しい評価をされる同クラブですが、環境問題への熱心な取り組みによって2023年には世界で初めて「カーボンニュートラルなスポーツクラブ」と国連に認定されました。さらに国際サッカー連盟「FIFA」は同クラブを「世界で最も環境に優しいサッカークラブ」と評しています。

同クラブは、ヴィーガン食を全面導入し肉食がもたらす気候変動へ一石を投じたことでも知られ、また農薬や除草剤を使用しない有機ピッチの使用、水道水ではなく雨水を利用したピッチへの散水、太陽光エネルギーを動力とする伝導芝刈り機の使用、持続可能な交通手段のファンへの推奨など様々な取り組みを実施。2023年には水処理および飲料水供給に関するソリューションを提供する企業「Culligan UK」と提携し、ホームスタジアムに再利用可能なボトルの充填ができるウォーターステーションの設置をはじめ、スタジアムのすべてのエリアに完全かつ包括的な持続可能な水分補給ソリューションを施し、使い捨てプラごみ削減に取り組んでいます。

こうした取り組みの結果、ファンの裾野も広がり(環境問題やヴィーガンに関心をもつ層)20カ国に約100のサポータークラブができ、クラブの協賛企業は2019年から2021年の2年で4倍増えて70社に。さらに他のクラブから「ファンが来なくなる」と忠告されたヴィーガン食の売上高は以前の5倍に伸びました。

ヴィーガン食とサステナビリティーでファンを急増させたイギリスのフットボールクラブ | The Asahi Shimbun GLOBE+(外部リンク)Forest Green Rovers named ‘greenest football club in world’ | BBC(外部リンク)無名サッカークラブが「世界一エコ」で大注目 イングランド4部のフォレストグリーン | JIJI.COM(外部リンク)

 

日本で行われたスポーツイベントでの廃棄ごみの実態調査

世界のスポーツイベントやスポーツチームが気候変動に対する様々な改革を進める中、HEROs PLEDGEでは日本のスポーツ界の環境負荷に関する実態を把握するため、ごみの廃棄量調査を実施しました。

2024年、ジャパンラグビーリーグワンの試合において廃棄ごみの実態調査を行ったところ、可燃ごみの53.4%、不燃ごみの54.1%が使い捨てプラごみという結果がでました。可燃ごみと不燃ごみの半分以上が使い捨てプラごみだったのです。選手・スタッフが廃棄したごみで最も多いものがペットボトル、来場者が廃棄したごみで最も多かったものがプラスチック容器でした。使い捨てプラスチックごみは、製造から廃棄に至る全ての工程で気候変動の一因となっています。

 

日本でも広がる取り組み「2023年 第18回 湘南国際マラソン」

2023年12月3日に開催された「第18回 湘南国際マラソン」は、給水方法を従来の方式と変えることで、ごみ排出量を8,446kg減少することに成功しました。旧給水方式が採用されていた2019年には、給水所で約50万個の使い捨て紙コップ・プラカップ、約31,500本のペットボトルを使用。新給水方式では参加ランナー全員がマイボトルを携帯し、給水ポイントでマイカップ・マイボトルで給水する方式にしたため、給水ポイントで出るゴミが0になりました。こうした取組の結果、2019年に11,495kgも排出されていたごみが、2023年には3,049kgまで減少。大会後に実施した参加者へのアンケートでは4,828件の回答があり、約94%がマイカップ・マイボトル方式に賛成と回答しました。

2024年に開催予定の「第19回 湘南国際マラソン」では、ランナーが寒さしのぎの使い捨てウェア(その多くがプラスチック由来)を路上に廃棄する課題を解決するために「クリーンスタートプラン」という新たな施策もトライアルで開始予定。さらなる使い捨てプラごみ削減に挑みます。

「第18回湘南国際マラソン」ゴミ排出量結果 旧給水方式と比べ8,446kg減少に成功 | KYODO NEWS PRWIRE(外部リンク)Clean Start Plan | 湘南国際マラソン公式サイト(外部リンク)

 

クラブ・協会とファンの協力で行う「HEROs PLEDGE一斉アクション」

当プロジェクト「HEROs PLEDE」でも使い捨てプラごみ削減のための取り組み「HEROs PLEDGE一斉アクション」を行っています。本キャンペーンは一定期間にスポーツ界を横断して環境問題への取り組みを実施。「鹿島アントラーズ」「川崎フロンターレ」「ヴァンフォーレ甲府」「FC今治」といったJリーグクラブや「千葉ジェッツ」「福島ファイヤーボンズ」といったB.LEAGUEクラブをはじめ「バドミントン協会」「セーリング連盟」などパートナー団体によるホームゲームでのファン参加型のごみ拾い・分別イベントを行っています。

 これまでには200名を超えるファンと一緒に、ホームゲーム開催前に地域のごみ拾いを実施したクラブもありました。また、マイボトルの持参、ウォーターサーバーの設置、エコバックの使用、地産地消の推奨、公共交通機関の利用呼びかけなど啓発活動も実施。「HEROs PLEDE」はこうした取り組みを2024年4月〜6月にかけて10回開催。参加した多くのファン・関係者が環境問題への意識を高めるきっかけとなっています。まずは意識啓発として取り組みやすいごみ拾いと分別アクションからスタートしていますが、今後は削減に向けた取り組みを様々なスポーツ団体、アスリートとともに行なっていきます。

【HEROs PLEDGEの活動事例】

 

工夫ひとつで使い捨てプラごみは減らせる!

あなたのチームでも取り組みませんか

現在、世界中の様々なスポーツイベント・スポーツチームが使い捨てプラごみ削減をはじめ、気候変動への対策に取り組んでいます。このトレンドは今後さらに広がっていくことが予想されます。

本記事で紹介した事例は、世界のトレンドを知っていただくため、国際的なスポーツイベントや、大規模な改革を実行したクラブが中心になりましたが、どんな小規模なスポーツイベント・スポーツチームでも工夫ひとつで使い捨てプラごみ削減に取り組むことはできます。ファンやチームメイトにマイボトル持参を呼びかけるだけでも立派な気候変動対策です。また、スポーツのプロ選手だけでなく、アマチュアや学生など、スポーツに携わる1人ひとりが小さなアクションを行うことが、やがてスポーツ界を変える大きな流れになっていきます。

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